マイホームと賃貸の生涯支出比較、90歳まで差は171万円

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30歳の夫婦がマイホームを購入した場合と、賃貸で暮らし続けた場合の、90歳までの生涯支出を比較すると、購入のほうが約171万円安くなるという試算が公表されました。試算を示したのは、経済評論家でマネーコンサルタントの頼藤太希氏(Money&You代表取締役)です。固定資産税の負担や住宅ローン控除まで加味したうえでの結果ですが、この171万円という数字だけを見て購入を選ぶのは早計だと頼藤氏自身も注意を促しています。頭金の有無や今後の金利動向によって、この差は縮まったり逆転したりする可能性があるからです。新築マンション価格も家賃もそろって上昇を続けるいま、マイホーム購入と賃貸のどちらが有利なのか、金額の面から気になっている人もいるでしょう。ここでは、生涯支出シミュレーションの中身と、そこに数字として表れていないリスクの両方を確認していきます。

目次

東京23区の新築マンション価格は6年で1.86倍に上昇

日本でインフレが本格的に進行し始めたのは2022年4月以降とされますが、新築マンション価格の上昇はそれより早く、2020年ごろから始まっていました。不動産経済研究所のレポートによると、東京23区の新築マンション平均価格は2019年度の7400万円から2025年度には1億3784万円まで上がり、1.86倍に達しています。首都圏全体で見ても、2019年度の6056万円から2025年度の9383万円へと1.54倍に上昇しました。わずか6年ほどの間にマンション価格が1.5倍から1.9倍近くまで跳ね上がったことになります。

エリア2019年度2025年度倍率
東京23区7400万円1億3784万円1.86倍
首都圏全体6056万円9383万円1.54倍

家賃も同様の動きを見せています。アットホームのレポートでは、平均家賃指数は2018年ごろから上昇傾向にあり、2026年時点で2015年時点の1.4〜1.6倍に達しました。さらに直近では上昇ペースが加速しており、Bloombergの報道によれば、2026年1月の全国の民営家賃は前年同月比0.7%上昇し、1998年3月の0.8%上昇以来、約28年ぶりの高い伸びとなっています。地域別では、2026年2月のマンション平均募集家賃が首都圏全エリアと名古屋市、京都市など11エリアで全面積帯にわたり前年同月を上回り、単身向け物件で前年同月比11.1%、ファミリー向け物件で10.8%という大幅な上昇を記録したエリアもありました。

建築費は2026年に前年比5%上昇の見通し、鉄筋価格は4割高

新築マンション価格がここまで上がった背景には、土地価格の上昇に加えて建築費そのものの高騰があります。2026年の建設費は前年比で約5%上昇する可能性があると試算されており、これは2021〜2022年のウッドショック期に匹敵する上昇率です。人件費の上昇だけでも前年比プラス3%程度が見込まれ、国土交通省のデータでは公共工事の設計労務単価が2025年時点で13年連続の上昇を記録しました。

資材価格の上昇も続いています。集合住宅(RC造)の建築費は2015年比で約35%上昇し、鉄筋やH形鋼の価格も2021年初頭と比べて3〜4割高い水準です。断熱材メーカー大手は2026年3月に製品を40%値上げしており、資材価格の上昇は住宅の末端価格にまで及んでいます。資源高や円安も建設費を押し上げる要因になっています。人件費と資材費という供給側のコスト構造そのものが押し上げられている以上、新築住宅の価格が大きく下がる展開は考えにくく、購入のタイミングを見極めるうえでこうした建築費の動向を押さえておく必要があります。

インフレ時代にローンを組んで買うほうが有利という論調が増えた理由

最近は「マイホームは購入すべき」という持ち家派の意見が目立つようになりました。理屈は単純です。インフレが進むと住宅価格も家賃も上がりますが、住宅ローンを組んでしまえば借入金の元本自体は増えません。物価や家賃が上がっていく局面では、返済額が固定されたローンを組んで家を持つほうが、年々上がる家賃を払い続けるよりも有利になりやすいという考え方です。

これは、これまでの常識とは大きく異なります。バブル崩壊後、長く続いたデフレの時代には、家は買った瞬間から資産価値が下がり続けると言われ、価値が下がるものを買うより賃貸で住み替えるほうが合理的だという考え方が広く共有されていました。インフレ環境になったことで「住宅価格は上がるもの」という前提が広がり、購入した家に生涯住み続けるつもりなら賃貸より持ち家のほうがメリットが大きくなるという主張が増えているのは、こうした背景によるものです。どうしても家を購入したいという強い思いがあるなら早めの購入を検討する価値はありますが、そうでない場合は、購入と賃貸それぞれのメリットとデメリットを比較してから判断するのが賢明でしょう。

持ち家志向は2011年の8割超から2023年に65.5%まで下がった

インフレを背景に「持ち家のほうが有利」という論調は増えていますが、長期的なデータで見ると日本人全体の持ち家志向自体は必ずしも強まっていません。国土交通省が5年に一度実施している住生活総合調査によると、2023年時点で「土地・建物とも所有したい」と回答した人の割合は65.5%でした。平成23年(2011年)まではこの回答率が8割を超えていたため、10年余りの間に持ち家志向は明確に下がったことになります。一方で住宅そのものへの満足度は着実に向上しており、住宅に対する不満率は1988年の51.5%から2023年には23.1%まで下がりました。

「インフレ時代だから持ち家のほうが得だ」という経済合理性の議論と、「そもそも持ち家にこだわりたいかどうか」という価値観の変化は、別の軸で捉える必要があります。生涯支出のシミュレーション上は購入が有利という結果が出ていても、住み替えの自由度や身軽さを重視する価値観が広がっている以上、金額の差だけで結論を出すべきではないということが、この調査結果からもうかがえます。

購入の利点はローン完済後の負担減、弱点は住み替えにくさ

マイホームを購入する最大の利点は、住宅ローンを完済すれば、その後の住居費負担が大きく減ることです。家賃相場が上がり続ける時代であるほど、この利点は大きな意味を持ちます。完済後も固定資産税やリフォーム費用は発生し続けますが、家そのものが自分の資産になるため、いざとなれば売却して資金化することも可能です。間取りの変更を自分の判断で自由に行える点も、賃貸にはない利点です。

一方で弱点もあります。転勤や家族構成の変化があっても、賃貸のように簡単に住み替えることはできません。住宅ローンを完済するころには設備の老朽化が進んでいたり、購入したエリア自体の人気が落ちて資産価値が下がっていたりする可能性もあります。数十年先の街の姿を見通すのは誰にとっても難しく、こうした長期的な不確実性は購入する側が引き受けなければならないリスクです。

賃貸の利点は住み替えの自由、弱点は生涯続く家賃負担

賃貸の最大の利点は、ライフスタイルや家族構成の変化に応じて住むエリアや間取りを臨機応変に変えられる柔軟性です。独身のうちは費用を抑えたコンパクトな部屋、結婚して子どもが生まれたら広い部屋、子どもが独立したら再びコンパクトな部屋へと、人生のステージに合わせて住まいを変えていけます。設備の新しい物件や活気のあるエリアへ柔軟に住み替えられる点も見逃せません。住宅ローンを組む必要がないため、頭金や諸経費のためにまとまった資金を用意しなくてよいこともメリットです。

弱点も小さくありません。賃料は生涯にわたって発生し続け、原則として2年ごとに更新料が必要になるケースが多いため、家賃そのものが上昇し続けるいまの時期は、この弱点がより重くのしかかります。さらに見過ごされがちなのが、高齢になると部屋を貸してもらいにくくなるリスクです。この点は後ほど調査データとあわせて詳しく見ていきます。

6000万円マンション購入と賃貸の90歳までの差は171万円

頼藤氏が示したシミュレーションの前提は、30歳の夫婦が6000万円の新築マンション(長期優良住宅)を購入した場合と、賃貸に住み続けた場合の住居費を比較するというものです。長寿化を踏まえ、90歳まで生きるという仮定で試算されています。

購入と賃貸、それぞれの試算条件

購入のケースでは、住宅ローンは年1%の変動金利で、35年の返済期間中は金利が変わらないものとして試算されています。頭金は500万円が準備できている前提です。賃貸のケースでは、子どもの成長にあわせて広い部屋へ、子育てが終わって夫婦2人になればコンパクトな部屋へ住み替えるという、実際のライフスタイルに近い想定がなされています。

項目内容
夫婦の年齢30歳(購入・賃貸とも)
想定寿命90歳まで
物件価格6000万円(新築マンション、長期優良住宅)
頭金500万円
住宅ローン金利年1%(変動、35年間変わらない前提)
生涯支出の差購入が賃貸より約171万円安い

この条件で試算した結果、購入のほうが賃貸よりも約171万円安くなりました。固定資産税の負担や住宅ローン控除による還付まで加味したうえでこの結果になっている点は注目に値します。金利条件や物件によって結果は変わるため、あくまで一つの目安として捉えるべき数字です。

171万円という差は頭金と金利次第で縮まる可能性がある

頼藤氏自身も指摘しているとおり、171万円という金額だけを見て購入が正解だと即断するのは早計です。このシミュレーションは頭金500万円を準備できていることが前提になっており、頭金が用意できない場合は条件が変わってきます。さらに重要なのは、変動金利が上昇しないという前提で試算されている点です。今後実際に金利が上がっていけば、購入側の負担が賃貸よりも大きくなる可能性は十分にあります。

逆に、このシミュレーションに含まれていない要素もあります。90歳の時点でマンションの資産価値が残っており、無事に売却できれば、その分だけ実質的な住居費用をさらに圧縮できる可能性です。金額の比較は出発点として捉え、前提条件まで理解したうえで判断する必要があるでしょう。

戸建ての修繕費は30年で約1200万円、年20万〜30万円の積立が目安

生涯支出のシミュレーションでは触れられていない、購入側が見落としやすいコストがあります。ひとつは長期的な修繕・リフォーム費用です。SUUMOジャーナルが報じた調査によると、一戸建ての場合、30年間で必要となる修繕費用の総額は約1200万円にのぼります。マンションより戸建てのほうがメンテナンス費用がかからないと考えられがちですが、実際には長期的な積み立てが必要になります。

築30年以上の住宅を対象にしたリフォームの費用相場は平均368.2万円で、目安としては300万〜1000万円程度とされ、専門家の多くは年間20万〜30万円程度を修繕費として確保しておくことを勧めています。築30年を超えた戸建てでも、適切なリフォームを行えばさらに20〜30年住み続けることは可能です。こうした費用を計画的に準備できるかどうかが、購入後の生涯支出を左右する要因になります。

固定資産税は年10万〜15万円、長期優良住宅は最長7年間半減

固定資産税についても、シミュレーションの前提とは別に実額を確認しておく価値があります。一戸建て住宅で取得費用が2000万〜4500万円程度の場合、固定資産税の年間支払額はおおよそ10万〜15万円が目安です。計算のベースは建物や土地の評価額に税率1.4%をかけたものですが、新築の認定長期優良住宅であれば、戸建てで5年間、マンションなど共同住宅で7年間、固定資産税が2分の1に減額される特例措置があります。頼藤氏のシミュレーションでもこうした軽減措置が加味されていると考えられますが、特例期間が終了したあとは負担が元の水準に戻る点は覚えておく必要があります。

2026年春の変動金利は0.9〜1.1%、大手行は基準金利を0.25%引き上げ

もうひとつの見落としやすいリスクが、住宅ローンの金利上昇です。日本銀行が国債買い入れの縮小を進めていることを背景に、2026年に入ってから長期金利が上昇しやすい環境となっており、2026年春の変動金利は0.9〜1.1%台が中心となりました。2026年4月には日銀の利上げ方針を受けて大手銀行が基準金利を約0.25%引き上げ、変動金利が平均1%を超える15年ぶりの高水準になるとの見通しも示されました。主要なシンクタンクの予測では、2026年中に政策金利が1.0〜1.5%程度に達するという見方もあります。

頼藤氏のシミュレーションが前提としている「年1%の変動金利が35年間変わらない」という条件は、あくまで一つのシナリオです。実際にはこれより金利が上がる前提で考えておいたほうが安全でしょう。金利が上がるほど購入側の総支払額は増えていき、171万円という差は縮まったり逆転したりする可能性があります。

高齢者の入居を断った経験がある管理会社は49.2%

賃貸側で見過ごされがちなのが、高齢になったときに部屋を貸してもらいにくくなる問題です。これは単なる懸念ではなく、複数の調査で具体的な数字として裏付けられています。

アットホーム株式会社が2026年2月に実施した調査によると、直近1年間で「高齢であることを理由に入居を断ったことがある」と回答した管理会社は49.2%にのぼり、およそ2社に1社がシニア層の受け入れを断った経験を持っていました。R65不動産が実施した調査では、年齢を理由に不動産会社から入居を断られた経験がある人は30.4%、3人に1人に達しています。誰の意向で入居を断ったのかという質問には、「オーナーの意向」が40.2%、「オーナーと管理会社両方の意向」が45.3%と、合わせて8割以上が物件所有者の意向によるものでした。

管理会社が単身高齢者の入居に際して課題やリスクと感じている内容は、「孤独死」への懸念が84.0%と最も多く、次いで「事故物件化」による資産価値の低下への懸念が38.4%、退去時の「残置物処理」への不安が37.0%と続きます。孤独死対策として期待される見守りサービスについては、90.1%の管理会社が存在を認識しているものの、実際に物件へ導入している割合は19.5%にとどまり、対策が普及しているとは言いにくい状況です。生涯にわたって賃貸を続ける場合、家賃の総額比較だけでなく、高齢になったときに希望する条件で住み続けられる部屋を確保できるかどうかというリスクも織り込んでおく必要があります。

全国の空き家は約900万戸、総住宅数の13.8%を占める

購入後の資産価値を考えるうえで無視できないのが、日本全体で進んでいる空き家問題です。総務省の住宅・土地統計調査によると、2023年時点で日本国内の空き家は約900万戸にのぼり、総住宅数の約13.8%を占めています。このうち放置状態にある「その他空き家」は約385万戸、全体の約5.9%に達し、この20年間で約1.8倍に増加しました。空き家問題の背景には、新築住宅の供給が需要を上回ってきたことがあります。高齢化や人口減少、都市部への人口集中を背景に、地方を中心に既存住宅の供給過剰と需要不足が続くことで、2026年以降も空き家の増加傾向が続くと見込まれています。

制度面でも対策は強化されつつあります。2023年の法改正では、破損した窓や伸びきった植栽など管理不十分な兆候がありながら改善されない空き家について、固定資産税の軽減措置の対象から外す仕組みが導入されました。2026年3月にはこの空き家対策特別措置法の運用がさらに厳格化され、「特定空家等」の判定基準が明確になるとともに、国土交通省の統一的なガイドラインに基づいて自治体の判断が迅速になっています。特定空家等に指定されると住宅用地に対する固定資産税の減免措置を受けられなくなり、税負担が最大で6倍程度に増える可能性がある点は、購入後に物件を空き家として放置するリスクの大きさを示しています。

水害リスクの高いエリアは資産価値が下がりやすい

エリア選定という点では、自然災害リスクも見逃せない要素です。国土交通省が提供するハザードマップポータルサイトでは、住所を入力するだけで水害や土砂災害などのリスクを確認できますが、水害リスクの高い区域にある物件は将来の資産価値が下がりやすい傾向があります。こうした地域では火災保険の水災補償料が割高になったり、住宅ローンの融資審査が厳しくなったりするケースもあり、購入希望者自体が敬遠しやすいことから不動産価格が下がる要因にもなります。重要事項説明で説明が義務化されているのは水害ハザードマップに関する内容のみで、土砂災害や地震動、液状化などのリスクは対象に含まれていないため、購入を検討する際は自分でハザードマップを確認しておくことが欠かせません。どのエリアの、どの物件を選ぶかによって将来の資産価値や管理コストは大きく変わります。資産価値が下がりにくいエリアや幅広い世代にニーズのあるエリアを選ぶべきという点は、単なる一般論ではなく、生涯支出シミュレーションの前提そのものを左右しうる条件だと言えるでしょう。

フラット35利用者の平均年齢は44.5歳、中古住宅選択が34.8%に増加

実際に住宅ローンを組んで家を購入している人たちのプロフィールも参考になります。住宅金融支援機構が実施した2024年度のフラット35利用者調査(借換えを除く27523件が対象)によると、利用者の平均年齢は44.5歳(前年度から0.2歳上昇)、平均世帯年収は669万円(前年度から8万円増)でした。住宅タイプ別では土地付注文住宅・注文住宅の利用割合が34.9%と最も多い一方、中古住宅の利用割合が34.8%(前年度比7.4ポイント増)となり、直近10年間で最高を記録しています。新築だけでなく中古住宅を選ぶ層が増えている背景には、新築マンション・戸建て価格の上昇そのものが影響していると考えられます。

住宅購入を検討する年代は40代前半が中心で、この年代で無理のない返済計画を組めるかどうかが、生涯支出シミュレーションの前提を大きく左右します。頭金をどの程度用意できるか、世帯年収に対してどの程度の借入額が無理のない範囲かという点は、171万円という試算結果よりも、個々の家庭の資金計画にとってはるかに重要な要素です。

所有へのこだわりがあるなら金利が低いいまが買い時

将来的にマイホームを購入したいという強い思いがあるなら、いまは早いうちに購入を検討することが一つの合理的な選択になります。住宅ローンの返済が定年後まで続くと老後の生活を圧迫しますし、金利が上がっていくフェーズでもあるため、金利が低いうちに借りておいたほうが将来の負担を抑えられる可能性が高いからです。

頭金が準備できていないからといって購入を諦める必要はありません。いまは頭金なしで全額を住宅ローンで借り入れることも可能です。頭金として使うはずの資金を大きく投じず、その分をNISAなどの運用に回すという考え方も、選択肢のひとつになるでしょう。早い時期に住宅ローンを組み、資金に余裕ができた段階で繰上返済を行っていく進め方もあります。

一方で、所有そのものにこだわりがないなら、171万円という金額差だけを理由に購入を急ぐ必要はありません。持ち家志向が2011年の8割超から2023年には65.5%まで下がってきた背景には、住み替えの自由度や身軽さを重視する価値観の広がりがあります。金利上昇リスクや高齢期の入居問題といった、金額だけでは測りにくい要素まで含めて把握したうえで、自分たちのライフプランに合わせて選ぶことが大切です。マイホーム購入と賃貸の生涯支出を比較した171万円という差は、あくまで判断の出発点として受け止めるのがよいでしょう。

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