吹き抜けや大開口のある家でも、耐力壁を釣り合いよく配置し、偏心率を法の基準である0.3以下に収めれば、耐震性と開放感は両立できます。専門家は0.15以下を目安にすることを勧めています。家づくりの打ち合わせで「吹き抜けにすると地震に弱くなりますか」と聞かれることは多く、答えは「間取りを決める段階で構造を一緒に考えれば大丈夫です」です。
逆に言えば、リビングの吹き抜けや南面いっぱいの窓を先に決めて、耐力壁は余ったところに入れるという順番では、壁の量が足りなくなったり、配置が偏ったりします。ここで耐震性能が落ちます。
この記事では、耐力壁の役割、重心と剛心のずれを数値にした偏心率、四分割法と壁率比、吹き抜けまわりの水平構面、2025年4月の建築基準法の改正、2016年の熊本地震の被害データを順に説明します。読み終える頃には、設計者に何を聞けばよいかが具体的に分かるはずです。

吹き抜けと大開口の家でも耐震等級3は実現できます
吹き抜けや大開口があっても、構造設計を適切に行えば、耐震等級3を実現することは十分に可能です。ただし、何もしなくてよいという意味ではありません。
耐震等級3は、等級1(建築基準法が定める最低限の基準)で想定する地震力の1.5倍の力に対して、倒壊や崩壊をしない強さを持つ等級です。この1.5倍を満たすには耐力壁を多く、しかも釣り合いよく置く必要があり、大きな窓や大きな吹き抜けとは取り合いになります。
制約を小さくする手段が、許容応力度計算(構造計算)です。簡易な壁量計算だけで考えるより、個別に検証できる分だけ間取りの自由度が広がることがあります。吹き抜けと大開口を扱った複数の解説記事でも、耐震等級3を目指すなら、できれば構造計算まで行うことが強く勧められています。
耐力壁は筋かいと構造用面材で水平の力を受け止めます
耐力壁とは、地震や風などの水平方向の力に抵抗するために、柱と梁などの軸組に筋かいや構造用面材を組み込んだ壁のことです。普通の間仕切り壁とは役目が違います。
見落とされやすいのは、壁一つひとつの強さより、家全体での並び方のほうが効くという点です。四角形の部屋ならコーナーに置き、上の階と下の階で耐力壁の位置をそろえておくと、揺れの力が均等に伝わります。反対に、1階の壁の真上に2階の壁がないと、力の流れが途中で途切れてしまいます。
吹き抜けや大開口の計画では、この「並び方」が一番に崩れます。窓を大きくすれば、その面の耐力壁は減ります。吹き抜けをつくれば、上下の壁が通らない場所が生まれます。減った分をどこで補うかを、最初に決めておく必要があります。
重心と剛心のずれが、地震時のねじれを大きくします

建物の重さの中心を重心、建物の強さの中心を剛心と呼びます。この2つのずれが偏心で、ずれの大きさを比率で表したものが偏心率です。偏心率が大きいほど、地震のときに建物がねじれるように揺れます。
偏心率は、重心と剛心から求める偏心距離と、弾力半径から計算します。構成要素は次の3つです。
| 要素 | 求め方 |
|---|---|
| 重心 | 各階で、鉛直力を支える柱などの主要な部材に生じる軸力と、その部材の座標から計算します |
| 剛心 | 剛心まわりのねじり剛性から計算し、X方向とY方向それぞれに有効な耐震要素の和をとります |
| 弾力半径 | X方向とY方向を検討するとき、建物の剛性などから算出します |
イメージで言えば、重い部分と硬い部分の位置が大きく離れた建物ほど、揺れを受けたときに回転しやすくなります。たとえば南面に大きな窓を並べて、北側に壁を集めた家では、硬さの中心が北に寄り、重さの中心とずれやすくなります。
偏心率は0.3以下が法の基準、専門家の目安は0.15以下
現在の建築基準法は、木造住宅などの偏心率を0.3以下とするよう定めています。住宅診断を行う専門家は、これより厳しい0.15以下になるように設計しておくことを勧めています。
0.3は「超えたら不適合」の線で、0.15は「安心して暮らせる家」の線と考えると分かりやすいでしょう。基準ぎりぎりで通した家と、余裕を持って通した家では、設計図の上では同じ合格でも、揺れ方の余裕が違います。
家づくりの途中で設計者に偏心率を聞くと、数字で答えてもらえます。「基準内です」だけで終わる設計者より、「X方向は0.08、Y方向は0.12です」と具体的に答える設計者のほうが、構造をきちんと見ていると判断できます。
偏心率を計算せずに確認する四分割法と壁率比
木造住宅では、偏心率を詳しく計算する代わりに、四分割法という簡便な方法で耐力壁の釣り合いを確認することがあります。この方法で出す数値が壁率比です。壁率比は、耐力壁の置き方が釣り合っているかを見るための数値です。
壁率比は側端部分の壁量充足率の比で決まります
求め方の手順は次のとおりです。
まず、建物の各階を、それぞれの方向について両端から4分の1ずつの部分(側端部分)に分けます。次に、それぞれの側端部分について必要壁量を算定し、実際に配置した壁量との比である壁量充足率を求めます。最後に、向かい合う2つの側端部分で、壁量充足率の大きいほうに対する小さいほうの割合を計算します。この割合が壁率比です。
壁率比が一定の値以上であれば、壁の配置は釣り合っていると判断します。片側の面に窓が集中している、片側だけに大きな開口があるといった間取りは、この確認で不利になります。
2025年4月の改正で、準耐力壁は四分割法の計算に入れません
後述する2025年4月の改正で、存在壁量に準耐力壁等を算入できるようになりました。ただし四分割法では、準耐力壁等は算入せず、耐力壁だけで算定します。
腰壁や垂れ壁などを使って壁量を稼いだ設計でも、釣り合いの確認では耐力壁だけで成り立っていなければなりません。大開口を取った面に腰壁で壁量を足して済ませる、という手は通りにくくなります。
吹き抜けは床に穴をあけるので、水平構面の補強が前提になります
吹き抜けは、床がなくなる部分です。床は、地震の力を各耐力壁に伝える水平構面の役目を持っています。吹き抜けでこの水平構面が欠けると、力の伝わり方が不十分になり、建物がねじれやすくなります。
吹き抜けをつくることは、建物という箱のふたをくり抜くことと同じです。くり抜いた部分の周囲は、水平構面としてしっかり固めなければなりません。
阪神・淡路大震災のあと、水平構面の剛性と耐力を確保することが重視されるようになりました。一般的な補強は、構造用面材を横架材に釘で留める方法や、火打ち材を入れる方法です。研究・技術開発の分野では、吹き抜けの内側に格子状に横架材を配置する格子状吹抜け水平構面も報告されています。
板材の床は床倍率0.20から0.30倍にとどまります
床の強さは床倍率で表します。板材を使った水平構面の床倍率は0.20から0.30倍と低く、吹き抜けのある家には力不足です。長期優良住宅の申請に必要な耐震等級2以上を取るときは、構造用合板を使うことが多くなっています。
吹き抜けを採用する間取りでは、床のたわみや変形を防ぐための設計と施工の工夫が特に求められます。床が変形すると、離れた場所にある耐力壁へ力が届かず、壁が持っている強さを使い切れないまま建物が傷みます。
吹き抜けの耐震等級3を支える工夫は4つに絞れます

吹き抜けや大開口のある木造住宅で、耐震等級3を目指す設計の工夫は、大きく4つに分けられます。
1つ目は、水平構面の強化です。くり抜いた床の周囲を、構造用合板や火打ちで固めます。床が箱のふたの役目を果たせれば、地震の力が耐力壁へ順に伝わります。
2つ目は、耐力壁の配置です。耐力壁の絶対量を確保したうえで、左右に釣り合いよく置きます。量が足りていても片側に寄っていれば、偏心率が悪化します。量と位置は、どちらか一方では足りません。吹き抜けの下には補強梁を入れる、という考え方もあります。
3つ目は、床倍率の確保です。吹き抜けの周囲は床のたわみが出やすいので、床の強さを数字で確かめておきます。
4つ目は、梁の配置計画です。梁を基本的に南北方向に架けると、吹き抜けまわりの梁の負担を軽くできます。この方法は、吹き抜け周辺の梁をどう組むかを考えるときに使える一案です。
この4つは独立した対策ではなく、組み合わせて使います。水平構面を固めても耐力壁が偏っていれば偏心率は下がりませんし、壁を釣り合いよく置いても、床が弱ければ力が伝わりません。設計者と話すときは、4つを順に確認していくと抜けが出にくくなります。
2025年4月の建築基準法改正で、2階建て住宅にも構造審査が入りました
2025年4月から、建築基準法の改正により、建築確認・検査の対象が見直され、審査を省略する制度である4号特例が縮小されました。この改正は、吹き抜けや大開口の間取りを考える家づくりに直接関わります。
旧4号建築物は、新2号と新3号に振り分けられました
これまでの4号建築物は条文から削除され、新2号建築物と新3号建築物に振り分けられています。旧4号建築物のうち、2階建ての木造一戸建て住宅などでは、これまで審査・検査が省略されていた構造関係の規定についても、審査と検査が必要になりました。そのため、構造関係規定に関わる設計図書の添付が求められます。
建築確認の法定審査期間も、「7日以内」から「35日以内」に変更されました。施主から見ると、設計の段階で構造の根拠が整理され、確認申請でチェックされる機会が増えたことになります。
壁量基準は、荷重の実態に合わせて算定する形に変わりました
改正の背景には、省エネ化に伴う建物の重量化があります。木造建築物の省エネ基準への適合と、太陽光パネルの設置や断熱材の厚み増加などで建物が重くなる流れに対応するため、建築基準法施行令等が改正され、壁と柱の構造基準が見直されました。地震時の必要壁量と、柱の必要小径の算定方法が変わっています。
必要壁量は、建築物の荷重の実態に応じて算定します。重い屋根か軽い屋根か、地盤の条件、積雪の条件によって、床面積に乗じる係数が変わります。
主な変更点は次のとおりです。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 壁量基準の適用範囲 | 延べ面積500平方メートル以下、高さ13メートル以下かつ軒高9メートル以下、階数2以下 | 延べ面積300平方メートル以下、高さ16メートル以下、階数2以下 |
| 存在壁量への準耐力壁等の算入 | 算入できません | 必要壁量の2分の1以下まで算入できます。2分の1を超えた分は算定の対象外です |
| 四分割法での準耐力壁等 | 該当なし | 算入せず、耐力壁のみで算定します |
| 2階建て木造住宅の構造審査 | 省略されていました | 審査・検査が必要です |
| 建築確認の法定審査期間 | 7日以内 | 35日以内 |
壁量計算のうえでは、準耐力壁等に頼れる範囲に上限が設けられたと読めます。壁量を稼ぐための壁と、釣り合いを担う耐力壁は分けて考えるのが、今の基準に沿った見方です。
熊本地震では、建築年代が新しいほど倒壊率は下がりました

2016年4月14日の前震と16日の本震で、最大震度7の地震が熊本地方を襲い、熊本県内の18万棟を超える住宅に被害が出ました。特に震度7が2回観測された益城町は、木造化率が高かったこともあり被害が多く、297棟の木造住宅が倒壊しました。
益城町中心部の木造家屋の倒壊率は、建築年代によってはっきり差が出ています。
| 建築年代 | 倒壊率 |
|---|---|
| 旧耐震基準(1981年5月以前) | 28.2パーセント |
| 1981年6月から2000年5月 | 8.7パーセント |
| 2000年6月以降 | 2.2パーセント |
新しい基準で建てられた家ほど倒壊率は下がっています。基準は効いています。旧耐震基準の28.2パーセントと、2000年6月以降の2.2パーセントを比べると、倒壊率はおよそ13分の1です。
一方で、2.2パーセントは「ゼロ」ではありません。震度7が2回続いた益城町中心部で、2000年6月以降に建てた家のおよそ45軒に1軒が倒壊した計算になります。家づくりでは、この数字を自分の家に置き換えて考えてみてください。
しかも倒壊した7棟のうち3棟は、原因がいまも特定できていません。基準を満たした家が倒壊し、その理由を説明できない例が現実にあったことは、設計者も施主も頭に置いておくべき事実です。だから余裕を持った耐震等級3と、小さな偏心率を目標にする意味があります。
それでも2000年以降の家で7棟が倒壊しました
倒壊の内訳を見ると、新耐震基準以降の住宅でも、1981年から2000年に建てられたもので76棟、2000年以降に建てられたもので7棟の倒壊が確認されています。
国土交通省は建築研究所と連携して「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」を設置し、2016年9月30日に報告書をとりまとめました。国土技術政策総合研究所と建築研究所の現地調査をもとに、原因分析が行われています。
報告書では、現行の耐震基準を満たす木造住宅で倒壊した7棟のうち、4棟は原因が判明しました。残る3棟は原因を特定できていません。
この事実から言えるのは、基準を満たしていれば絶対に安全とまでは言い切れないということです。法の最低ラインぎりぎりで建てるより、耐震等級3や偏心率0.15以下のように余裕を持たせ、釣り合いのよい配置にしておくほうが、安心につながります。
壁の量が足りていても、配置が偏っていれば安心とは言えません
吹き抜けと大開口の相談で多い質問が「壁量計算をクリアしていれば大丈夫ですか」です。結論は、量だけでは足りません。
壁量計算は、建物全体で耐力壁がどれだけ必要かを確かめる計算です。ところが、必要な量を満たしていても、南面に窓を集めて北面に壁を寄せれば、重心と剛心は離れます。この離れ具合を測るのが偏心率であり、四分割法の壁率比です。量を確かめる計算と、釣り合いを確かめる計算は別物で、両方を通して初めて、揺れてもねじれにくい家になります。
2025年4月の改正で必要壁量の算定が荷重の実態に合わせる形になったため、重い屋根か軽い屋根か、積雪や地盤の条件はどうかによって、床面積に乗じる係数が変わります。必要な壁が増えれば、吹き抜けや大開口に回せる面積は狭くなります。だからこそ、間取りの初期段階で壁量と偏心率を一緒に計算し、窓の位置や大きさを調整していくことになります。
許容応力度計算を勧める声が強いのも、同じ理由です。この計算では、床や梁、耐力壁の組み合わせを個別に検証できるため、一律の壁量で縛られるより、吹き抜けや大開口を残したまま耐震等級3を確保する道が見つかる余地があります。
吹き抜けと大開口の家で確認したい7つのこと
ここまでの内容を、設計の打ち合わせで使える形にまとめます。
まず、耐力壁は建物の外周部にも釣り合いよく配置します。次に、吹き抜けを設けるなら、周囲の水平構面である床や火打ちを十分に補強します。3つ目に、南面などの大開口で減った耐力壁の分は、ほかの面の耐力壁で補います。4つ目に、上の階と下の階で耐力壁の位置をそろえます。
5つ目は、偏心率を法の基準の0.3以下だけでなく、0.15以下を目標にすることです。6つ目は、壁量計算だけで済ませず、必要に応じて許容応力度計算で検証することです。そして7つ目が、あとからのリフォームで安易に床を抜かないことです。
吹き抜けを後から増やすリフォームは、構造計算なしでは頼めません
吹き抜けの面積が広くなるほど、また既存の建物の構造が複雑なほど、構造補強の規模は大きくなり、費用も上がります。床を抜くだけの工事を提案する業者は危険です。必ず構造計算に基づいた補強計画を示してくれる、信頼できる業者に依頼してください。
新築の段階で吹き抜けを入れておくほうが、補強を最初から組み込めるので、構造も費用も有利です。
設計者に聞きたい2つの質問
吹き抜けと大開口の間取りで家づくりを進めるなら、設計者に次の2つを聞いてください。
1つ目は「偏心率はいくつですか」です。法の基準は0.3以下、専門家の目安は0.15以下です。数字で返ってくるかどうかで、構造への向き合い方が分かります。2つ目は「吹き抜けまわりの水平構面は、どう補強しますか」です。構造用合板の床なのか、火打ちなのか、補強梁を入れるのかを、図面で説明してもらえれば安心です。
2025年4月から、2階建ての木造住宅にも構造の審査が入りました。構造の根拠を整理した設計図書を求められる時代です。間取りの初期段階から、耐力壁の量と配置、水平構面、偏心率を一緒に確認していけば、吹き抜けも大開口も諦める必要はありません。








