家づくりの着工遅れはなぜ起きる?公共工事との資材競合が影響

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注文住宅の着工が予定より遅れる背景には、公共工事や再開発事業との間で建設資材と施工能力を奪い合う構造があります。国や自治体はインフラ更新や災害復旧の工事を優先度の高い事業と位置づけており、資材メーカーとの取引でも公共工事側が優先されやすい傾向があります。そのため個人の注文住宅は発注のロットが小さく、資材が届く順番で後回しにされやすいことが、着工や引き渡しの遅延につながっています。この記事では、着工遅れが起きている具体的な原因と、公共工事との資材の奪い合いという構造問題、そして家づくりを進める人が遅延リスクを抑えるためにできる対策を、2026年8月23日時点で確認できている情報をもとに整理しました。

目次

断熱材や仕上げ材が届かず着工後の工程が止まっている

2026年4月時点で、複数の住宅会社では3月上旬に発注した断熱材が1か月遅れで納品されたり、発注しても納期そのものが確定しないという事態が起きました。断熱材は住宅の基本性能に関わる資材で、これが届かないと上棟後の工程全体が止まってしまいます。

さらに影響が大きいのが、シンナーなどナフサ由来の資材が調達できないことです。外壁塗装や屋根塗装、内装の仕上げといった家づくりの最終工程が止まり、基礎や骨組みができあがっていても仕上げ材が届かず引き渡しができない、という状況が実際に起きています。着工から引き渡しまでの間、どの工程で足止めを食らうかが読みにくくなっているのが、2026年の家づくりの厳しさです。

ナフサショックが住宅設備の受注そのものを止めた

資材が届かない一番の理由は、中東情勢の緊迫化を発端とする「ナフサショック」です。ナフサとは石油化学製品の原料で、原油価格や為替の変動、輸送コストの上昇が重なると調達価格が急騰し、供給そのものが不安定になります。ナフサは接着剤や塗料、シーラント、断熱材の一部原料など、住宅建築に欠かせない資材の基礎原料になっているため、供給が滞ると製造ラインが止まり、住宅会社が発注しても「いつ届くか分からない」「受注自体が停止される」という事態につながりました。

終息の時期については、ホルムズ海峡が平時の通航水準に戻り、川中と川下のサプライチェーンの目詰まりが解消されるまでという条件つきの説明にとどまっており、明確な見通しは示されていません。2026年春先に深刻化した供給停止のフェーズは、政府による備蓄放出や代替調達ルートの開拓が進んだことで、同年6月には条件つきの回復局面に移行しました。住宅設備業界でも受注停止から一部再開へと状況は変化しましたが、納期の遅延や仕様の制約、価格の上昇が同時に進む不安定な供給状態は続いています。今後の焦点は「いつ届くか」ではなく「いくらで、どの仕様なら手に入るか」に移りつつあり、工務店は自社での建材調達ルートの確保と、施主との契約対応を先行して進めざるを得ない状況に置かれています。

公共工事と住宅建築は限られた資材と職人を奪い合っている

家づくりの遅れを考えるうえで見落とされがちなのが、住宅建築と公共工事、都市再開発事業が、限られた建設資材と施工能力を奪い合っているという構造問題です。東日本大震災以降、被災地の復旧と復興の事業では、資材や技能労働者の優先配分を調整する連絡協議会のような枠組みが組織された経緯があります。同様に、都市再開発やインフラ整備のような公共性の高い工事は、行政の要請や予算執行の都合で優先度が高く設定されやすく、一般の住宅建築に回る資材や職人の手配が後回しにされる傾向があります。

建設業界の人手不足も、この問題を深刻にしている要因です。建設業の技能労働者数は、1997年からリーマンショック後の2010年までの14年間、建設投資額の右肩下がりの減少とともに大きく減りました。その後、人口減少と高齢化が進むなかで、建設業を長く支えてきた団塊世代の技能者が後期高齢者となって次々にリタイアし、人手不足に拍車がかかりました。この結果、建設費が上昇して投資額そのものは増え続けているにもかかわらず、着工床面積は2025年度実績で1963年度以来、62年ぶりに1億平方メートルの大台を割り込みました。建設業界全体の施工能力が経済成長のボトルネックになりつつあることを示す数字です。

入札の現場でもこの影響は表れています。過去3年間に入札の不調や不落を経験した自治体は9割を超え、その理由の約8割が「価格が合わない」というものでした。公共工事の発注者側が想定する予算と、実際に施工を担う建設会社が提示できる価格の間に大きな乖離が生じており、再開発事業の見直しや中止が相次いでいます。長期の工期を要し、予算内で技能職や資材の手配が難しいと見込まれる工事については、建設会社があえて受注を控える動きも出ており、これが住宅建築を含む建設市場全体の供給制約をいっそう強めています。

資材が届く順番は発注する側の優先度で決まりやすい

資材と施工能力が逼迫する状況では、発注者側の優先順位が現実の着工スケジュールを左右します。災害復旧やインフラ更新、大規模再開発のように公共性や緊急性が高いと判断される工事は、行政的な調整や予算の重点配分の対象になりやすく、資材メーカーや専門工事業者との取引でも優先されやすい立場にあります。一方、個人の注文住宅は一件あたりの発注ロットが小さく、住宅会社ごとに調達力や交渉力の差が大きいため、資材メーカーと直接取引できる大手ハウスメーカーと、地場の工務店との間で資材が届く順番に格差が生まれやすくなっています。

こうした状況を受け、国土交通省と経済産業省、林野庁は2026年5月、住宅建材や設備、資材の流通事業者に対して安定供給への協力を要請する事務連絡を出しました。国土交通省はさらに、住宅建材や設備の変更が生じた際に、建築基準法上の完了検査や住宅性能表示制度の検査を柔軟に実施するよう関係機関に要請しています。加えて、中東情勢の変化によるナフサ由来資材の調達難に対応するため、代替資材の調達や流通経路の見直しといった設計変更を柔軟に認める運用を直轄工事で導入し、2026年6月16日以降は既契約工事を含めた全ての直轄工事に適用されています。これは公共工事を対象にした措置ですが、同一性能であれば建材や設備の軽微な変更を認めるという考え方は民間の住宅建築にも波及し、住宅会社が同等品への切り替えを施主に提案する動きが広がっています。

大手ハウスメーカーと中小工務店で資材確保の差が広がっている

大手ハウスメーカーは、建設資材の大量発注やセミオーダー型の商品設計によって打ち合わせや施工期間の短縮を図り、資材を長期在庫として抱え込まずに効率よく回転させる仕組みを整えています。取引量が大きいぶんメーカー側との価格交渉力も強く、供給が絞られる局面でも優先的に資材を確保しやすい立場にあります。

一方、中小工務店は集客の難しさや人材不足、技能承継の課題に加え、原価や資材コストの上昇で粗利が圧迫されやすく、住宅事業だけに依存する経営構造の弱さも抱えています。原材料の不足と物流の混乱を受け、住宅から非住宅まで幅広く使われる大手建材メーカーの製品では、具体的な受注停止や供給制限がすでに始まっており、非住宅用途の大型プロジェクト向けには大口注文の制限がかかる動きも出ています。発注ロットが小さく交渉力の弱い中小工務店ほど、必要な資材を必要なタイミングで確保することが難しくなりやすい状況です。2026年の住宅市場は、資材の高騰や住宅ローン金利の上昇、省エネ基準の義務化が重なり、新築の着工数は減少傾向が続いています。2025年度の新設住宅着工戸数は前年度比12.9%減の71万1171戸となり、建築基準法改正に伴う駆け込み需要の反動減も重なって落ち込みました。2026年度についてはこの反動が一巡し、前年度比7.6%増の77.7万戸まで回復するとの見通しが示されていますが、資材の調達難が長引けば、この回復ペースが計画どおりに進まない可能性もあります。価格の安さだけでなく、住宅会社がどれだけの資材在庫や調達ルートを確保しているかを見極めることが、結果的に工期の安定につながります。

ウッドショックによる構造材コストの高止まりも続いている

ナフサショックとは別に、木材価格の高騰、いわゆるウッドショックの影響も家づくりのコストと工期に影を落としています。ウッドショックは世界的な木材需給の逼迫によって価格が急騰する現象で、1970年代のオイルショックになぞらえて名づけられました。2026年は当初、ウッドショックの影響が落ち着き比較的安定した木材価格で推移すると見込まれていましたが、年の後半に入り中東情勢の悪化が木材の物流や調達コストにも波及し、再び上振れ圧力がかかる可能性が指摘されています。

木材価格は過去のピーク時の水準からは落ち着いたものの、元の水準には戻っておらず、為替の変動や物流コストの高止まりが続いているため、高止まりの状態が続いているのが実情です。輸入木材の価格上昇は、ローコスト住宅を扱うハウスメーカーや工務店、そして価格を重視する施主層に強い影響を与えてきました。新築住宅の建築工事費が上昇したことで当初の予算では新築が難しくなり、中古の戸建住宅へ計画を切り替える人が増える傾向も見られています。ナフサショックによる仕上げ材や設備の供給不安と、ウッドショックによる構造材コストの高止まりが同時に進むことが、2026年の家づくりの資金計画をいっそう難しくしている要因です。

引き渡し遅延はつなぎ融資の利息と二重家賃を膨らませる

着工や引き渡しの遅れは、入居が遅くなるだけの問題ではなく、住宅ローンや家計の資金計画にも直接影響します。多くの注文住宅では、土地代金や着工金、上棟金などを住宅ローン本体の実行前に支払う必要があるため、つなぎ融資を利用するのが一般的です。つなぎ融資には元金と利息を住宅ローンの融資実行時に一括返済するタイプと、利息分のみを毎月返済していくタイプがあり、いずれの場合も工期が延びるほど利息負担が積み上がります。つなぎ融資の金利は通常の住宅ローンより高く設定されているため、工期が1か月延びるごとに数万円単位で利息負担が増えていきます。

現在の賃貸住宅に住みながら新居の完成を待っている家庭にとっては、引き渡しの遅延が家賃とローン返済の二重払いの期間を長引かせる点も見逃せません。一般的には1か月から2か月程度の二重払い期間を見込んで資金計画を立てるべきとされていますが、資材調達の混乱が長期化すれば、この期間がさらに延びるリスクは十分にあります。つなぎ融資は最終的に住宅ローンの本融資で返済することが前提になっているため、住宅の完成や引き渡しが遅れれば住宅ローンの実行時期も後ろ倒しになり、申し込み時点より適用金利が上がってしまうリスクも存在します。金利が変動する局面では、この実行時期のずれが数十万円単位の総返済額の差につながることもあるため、契約時点で工期遅延時の金利の取り扱いについても住宅会社や金融機関に確認しておくことをおすすめします。

国土強靱化計画の20兆円が住宅建築との資材競合をさらに強める

住宅建築と公共工事の資材や施工能力の奪い合いは、今後さらに強まる可能性があります。政府は2025年6月、老朽化した公共インフラの更新を進める国土強靱化の中期計画を閣議決定し、地震などの災害への備えとして事業規模を20兆円強とし、2026年度から5年間の分野別達成目標を設定しました。高度経済成長期に集中的に整備された日本の道路や橋、港湾施設などの社会インフラは、今後一斉に老朽化の時期を迎えると懸念されており、2040年には道路橋の約75%、港湾施設の約68%が建設から50年以上を経過する見通しです。インフラの劣化は事故や経済活動の停滞に直結するリスクがあるため、更新工事は先送りしにくい公共性の高い事業と位置づけられています。

公共工事請負額の推移を振り返ると、逼迫の背景がより具体的に見えてきます。

年度公共工事請負額の目安
2013年度約14兆円台に増加
2019〜2020年度約15兆円まで増加
2021〜2022年度連続減少し14兆円台に
2024年度4年ぶりに15兆円台を回復

老朽化対策としての国土強靱化計画が本格化すれば、公共工事の発注規模は今後さらに拡大していく可能性が高くなります。公共工事の予算と発注量が増えるほど、限られた建設資材や技能労働者を巡る競合は住宅建築との間でいっそう激しくなると見込まれます。家づくりを計画する人にとっては、こうしたマクロな公共投資の動向が、自分たちの着工や引き渡し時期にも間接的に影響し得るという視点を持っておくことが大切です。

着工遅れのリスクを抑えるために契約前に確認すべきこと

まず、契約前の段階で工期遅延に関する条項を確認しておくことが欠かせません。契約書には、天災など不可抗力による遅延の場合に工期延長が認められる旨の規定が置かれていることが一般的ですが、資材調達難による遅延がこの不可抗力に該当するかどうかは契約内容や個別の状況によって判断が分かれます。遅延が通告された場合は、口頭だけでなく、なぜ遅れているのか、新しい引き渡し予定日はいつになるのかについて、メールや書面で正式な回答を得て記録を残すことが施主側の防衛策になります。

遅延の原因が建築業者側の責任による場合は、契約上の債務不履行として損害賠償請求ができるケースがあります。一方で、施主自身の希望による仕様変更や追加工事が原因である場合は、施主側に工期遅延の責任があるとされ、業者への責任追及が難しくなる点にも注意が必要です。資材の代替提案を受け入れる際も、性能や意匠がどう変わるのか、追加費用が発生しないかをそのつど確認しておくことが望ましいといえます。

住宅会社選びの段階では、自社の資材調達力や在庫状況、サプライヤーとの関係性について具体的に説明できる会社かどうかを見極めることが、結果的に着工と引き渡し時期の安定につながります。打ち合わせの場で「今、どの資材の納期が読みにくいか」を具体的に説明できる担当者かどうかも、判断材料のひとつになります。独自の調達ルートを持つ会社や、早期に資材を確保して契約対応を進めている会社は、業界全体が不安定な供給状況にあるなかでも、比較的スケジュールを守りやすい傾向があります。価格だけを比較して契約を急ぐと、契約後に資材調達の遅延に直面し、当初の想定より大幅に引き渡しが遅れるリスクが高まります。

2024年問題と省エネ基準義務化も着工遅れの背景にある

資材だけでなく、制度面の変化も着工スケジュールに影響しています。建設業では専門職の高齢化や人手不足で長時間労働が常態化していたため、時間外労働の上限規制は5年間の猶予が設けられていましたが、2024年4月に施行され、年間360時間という上限のなかで工程を組む必要が生じました。これまでと同じ条件で職人に長時間働いてもらうことができなくなったことで、現場ごとの工期に余裕を持たせる必要が出てきており、繁忙期には着工の順番待ちが起きやすくなっています。

もうひとつの制度変化が、2025年4月に始まった省エネ基準の適合義務化です。これまで省エネ基準への適合が求められていたのは延べ床面積300平方メートル以上の中規模・大規模建築物だけでしたが、改正によって住宅を含むすべての新築建築物に対象が広がりました。すべての住宅で断熱性能等級4、一次エネルギー消費量等級4以上を満たすことが求められるようになり、建築確認の申請でも省エネ基準への適合性判定を受けることが義務づけられています。基準への適合が確認されなければ着工そのものができない仕組みになったため、断熱材のような資材が思うように調達できない状況は、単なる納期の遅れにとどまらず、着工の可否そのものに関わる問題になっています。時間外労働規制による工期の余裕確保と、省エネ基準義務化による断熱材需要の増加が、資材不足の局面と重なったことも、2026年の家づくりで着工遅れが目立つ要因のひとつといえます。

2026年の家づくりを取り巻く環境は、資材価格の高騰にとどまらず、ナフサショックによる原材料供給の不安定化、建設業界の人手不足、そして公共工事や再開発事業との資材や施工能力の奪い合いという複数の要因が重なった構造的な問題になっています。国や自治体は建材の安定供給や設計変更の柔軟化といった対策を進めていますが、終息時期の見通しは不透明で、当面は「いつ届くか」よりも「いくらで、どの仕様なら手に入るか」を軸に計画を立てる必要があります。契約内容の確認、業者とのこまめな書面でのやり取り、そして調達力のある住宅会社選びという基本に立ち返ることが、着工遅れのリスクを抑える現実的な対策になります。

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